ワー

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雑記

大丈夫

雛鳥が初めて見たものを親だと思いこむように、オタクは初めて読んだSSを親だと思いこむ……かどうかはわからないが、少なくとも私は初めて読んだ(女性同士の恋愛を描く)SSの一部分をずっと信奉し続けている。

 ドラマチックな恋のはじまりを経た私たちは、きっと永遠のたそがれのなかで終わらない薄闇をみつめつづけるのだろう。私は、それに親しみたいと思う。
 きのう、こちらの花とおもえば、今日はこちらの花で、世界の色はとりどりだ。
 大丈夫、私たちはやっていける。

coolier.net

ここで私が感動したのは、「大丈夫、私たちはやっていける。」という一文だった。
「大丈夫」というのはハッピーエンドの条件のひとつだと思う。何かしらの事件が一段落した後、しばらくは本編中で描かれたような事件は起こらないだろう、またはどんな事件が起こっても乗り越えていけるだろう……そういう場面で読者が「大丈夫」を感じた時はじめて、作品は読者の意識を離れ、独立した状態で幕を閉じることができる。作中世界の行方がある程度の確信を持って予想できる状態になることで、読者は物語を手放すことができると言い換えても良い。
しかし、キャラクターが「大丈夫」と自ら宣言することは、それとはまったく異なる魅力をもつ。キャラクターが「大丈夫」と言う時、読者はそのキャラクターのことを「大丈夫」だと感じなくても良いのだ。あくまで個人的な感覚かもしれないが、キャラクターが「大丈夫」と宣言するとき、私は一気に自分の感じるべき「大丈夫」がキャラクターに巻き取られたように感じる。私がどう思おうと、そのキャラクターは自分(たち)の行末を「大丈夫」だと思っている、そのことによってキャラクターが主体的に物語の終わりを掴み取ったような感覚を覚える。ここに来て読者たる私は物語を手放す権利を失い(それはもちろん錯覚なのだが)、キャラクターは自ら私のもとから歩み去っていく。その感覚が大好きで、このパートだけは何度も読み返してしまうし、自分でなにか書くときにもキャラクターに「大丈夫」を宣言させたくなってしまう。
シンプルに「祈り」が好きだというのもあるのだが、それはまた別の話……

よかったもの

note.com

yamagatakouza.fanbox.cc

この講座はたまに全体公開になったところだけ読んでいる。投稿するようなものを書いた経験は全くないし、そのため読んでも身にはなっていないのだが、小説に対する批評を見る機会そのものが貴重なので楽しく読んでしまう。ちゃんと文芸誌とか買って書評を読めばいいんだろうけど…… あとシンプルに「その人の素顔」の記事は面白い。作家が何を考えて書いているのか語ってくれることは結構貴重な気がする。もしかして文芸誌にはそういうのも書いてあったりします?

ユージュアル・サスペクツ

https://www.netflix.com/title/1084379

「5人の前科者による犯罪計画の顛末を巧妙なストーリー展開で描いたクライムサスペンス」とのこと。ラストシーンの車に乗り込むまでの一連の流れがカッコいい。さりげなく、それでいてハッキリとキャラクターの印象を塗り替えるシブい演出。

the band apart - K. AND HIS BIKE

youtu.be

サブスクが解禁されたので聴き直した。ちょっとボーカルが苦しそうだけどやはり名盤。
動画はギタボ・荒井岳史のパート。普段は何気なく聴いているが、実際に弾いているところを見ると手数がとんでもなくて驚いてしまう。もともとメタルバンドだった技巧派集団らしく、ライブでは各パートの変態っぷりにビビることになる。ライブ行きたいな…… バンアパはMCも良いし。いつかのMCでベースの原さんが発した「ギリギリモザイクロバートフリップ」というワードがやたらと頭に残っている。

Daichi Yamamoto - WHITECUBE

youtu.be

Daichi Yamamotoの新譜は、白い立方体のアートスペースをイメージしたアルバムとのこと。
フロウが好きすぎる! 彼特有の粘りのある言葉運びが、よく取捨選択された清潔なビートの中をスムーズに滑っていく。特に終盤の曲からはコンセプト通り大きなホールや野外よりも小ぢんまりとした部屋が思い浮かぶようで、その内省的な音作りがTiny Desk Concertすらも自宅から行われる現在の状況と重なってしまう。いいアルバムですね……