2023年良かったアルバム10選
順不同です。
- 1. カネコアヤノ / タオルケットは穏やかな
- 2. boygenius / the record
- 3. GEZAN & Million Wish Collective / あのち
- 4. People In The Box / Camera Obscura
- 5. スピッツ / ひみつスタジオ
- 6. Disclosure / Alchemy
- 7. 君島大空 / no public sounds
- 8. Sufjan Stevens / Javelin
- 9. littlegirlhiace / INTO KIVOTOS
- 10. THE NOVEMBERS / THE NOVEMBERS
1. カネコアヤノ / タオルケットは穏やかな
一曲目の「わたしたち」から一気に掴まれた。思い切り良く響くファズギターと自在にテンションを変える歌声はここに来て絡み合い、前作よりもさらに闊達なバンドサウンドを聴かせてくれている。バンドとして大きい箱でやることをある程度意識し始めたのか、シンプルかつスケールしやすい曲が増えた印象で、そのともすれば薄く拡散しそうな変化にどこまでも個人的なカネコアヤノの歌声が説得力を与えている。とことんまでに生活に寄り添った歌詞もますます切れ味を増し、アルバムとしてはこれまでの中で最高傑作だと思う。ひとつの円熟期に入ったのではないか、と思わせる一枚。
一番好きな曲は「季節の果物」。「やさしいギター」→「季節の果物」→「眠れない」の流れが好きすぎて、ここばかり何度も聴いた気がする。
優しくいたい
海にはなりたくない
全てへ捧ぐ愛はない
あなたと季節の果物をわけあう愛から(季節の果物)
2. boygenius / the record
これも一曲目がいい。冒頭にアカペラ曲をかましてくるアルバムはだいたい好きになってしまう気がする。
ワンピースの名シーンみたいなジャケットがまずいいのだけど、この画に象徴されるように、boygeniusについてはこの3人の結束に触れずに済ませることはできない……というか、まずぼくがこの3人のライブでの佇まいやインタビューでの姿勢に食らいまくっている。アルバムを通してアンビバレントな愛だとか、性別や性指向に付随する思い込みについて歌っている3人だけど、音源以外でもそういった「言いたいことを言い、しかもカッコいい」という姿勢は変わらず、そこに他にないスター性を感じてしまう。USインディど真ん中といった音楽性ながら、3人のボーカルはそれぞれ個性が立ちつつSSWふうの歌心に満ちていて、その一点だけでこのバンドを好きになるには十分ではある。
好きな曲は「Not Strong Enough」。何度聴き直しても、ドラムが入る瞬間の「ここがこのアルバムのハイライトになるぞ」というスイッチが入る感覚と、「Always an angel, never a god」のリフレインにやられてしまう。「I am not strong enough to be your man」という内容の曲の一番盛り上がる部分がこのリフレインなのはパンチラインすぎるよなあ。
Always an angel, never a god(Not Strong Enough)
3. GEZAN & Million Wish Collective / あのち
以前から色濃く現れていた祝祭と狂騒、デモと反戦といったテーマはここにきて更に根源的ないのち……よりも更にひとつ前の「あのち」と結びつき、GEZANを新たなステージへと前進させた。コロナ禍で大勢が声を出すことが避けられていた時勢だからこそその魅力がわかった、とマヒトゥが話していたように、コーラス隊や管楽器も加わって鳴らしまくった響きは空間に作用するもの。だからこそ、このアルバムを一年通して何度も聴くほど好きになれたのは4月のライブに行けたのが大きかったような気がする。空間を埋める人々の声はそれだけでひとつのかけがえのない現象であって、それだけでメッセージ性を帯びている。
好きな曲は「萃点」。「TOKYO DUB STORY」から「萃点」への入りがめちゃくちゃ好き。
言葉に疲れたら 踊るのさ 踊るのさ(Third Summer of Love)
4. People In The Box / Camera Obscura
アコースティックと歌モノに寄り、フォーク的な暖かさが印象的だった前作から一転。Pink Floydも彷彿とさせるような無機質なイントロで幕を開けたアルバムは、「DPPLGNGR」の「別人だよ」に象徴される不意に突き放すような不気味さや、不条理感に満ちている。その緊張感がかなり好み、「ニムロッド」あたりにも通じる資本主義批判的なムードもまた好みで、初聴時のとっつきづらい印象と裏腹にかなり聴き直した。
好きな曲は「自家製ベーコンの作り方」。上にこんなことを書いておきながらアルバム中一番暖かい歌モノじゃん、というのはあるけど、こういうアルバムに差し込まれる歌モノはフォーキーなアルバムの歌モノとは別の感動がある。
ステイ、気付かないふりをしていろ(水晶体に漂う世界)
5. スピッツ / ひみつスタジオ
「i-O(修理のうた)」に象徴されるように、コロナ禍による活動制限からの復帰、その喜びを全員で歌い上げるようなアルバム。というか、実際「オバケのロックバンド」では全員がボーカルを取っている。
「美しい鰭」「大好物」のようなタイアップのヒット曲あり、「さびしくなかった」のようないかにもスピッツらしい甘いだけではない恋愛観の曲あり、そういった大充実のアルバムのラストを締めくくるのは音楽で・ライブで人と出会う喜びを歌う「めぐりめぐって」。しんみりする曲など入っていないのに、初聴時から泣いてしまった。いいアルバム、という感想よりも先に、いいバンド、という感想が来る一枚。スピッツ、いいバンドすぎるぜ……
好きな曲は「大好物」「さびしくなかった」あたり。アベレージが高い。
世界中のみんなを がっかりさせるためにずっと
頑張ってきた こんな夜に抱かれるとは思わず
ひとつでも幸せをバカなりに掴めた
デコポンの甘さみたいじゃん(めぐりめぐって)
6. Disclosure / Alchemy
良質でポップなハウスが詰め込まれたアルバムで、どこを取っても踊れない瞬間がない。Disclosureを今まで全く聴いたことがなく、このアルバムがあまりに良かったので過去作も聴いてみたのだが、あまりハマるものはなかった。このアルバムだけが突然刺さっている。ゲストボーカル無しというのも効いているのかもしれない。
今年は出社が増えたのもあり、外でサクサク移動しながら聴きたい曲を探していたので、そういう気持ちにこの一枚がハマったというのも大きい。実際、去年は結構SSWやジャズの新譜も聴いていたけど、今年はロックとダンスミュージックが多い気がする。中でも、一番聴いていたのがこのアルバムだった。「Looking For Love」のビートが入った瞬間に身体が動き出す。
Higher than ever before(Higher Than Ever Before)
7. 君島大空 / no public sounds
RUSHを彷彿とさせるプログレッシブなギターが炸裂する「札」から幕を開けたアルバムは、どこまでもポップな君島大空の歌を軸に、しかしそれを時にささやかに、時に過剰なまでに装飾するバンドサウンドと共に進んでいく。その緩急は「この歌メロならこれくらいの伴奏」というイメージを吹き飛ばすような勢いで、あくまでバンドサウンドでhyperpop的なものをやっているような印象すらある。GRAPEVINEのインタビューでも言っていたけど、今一番ポップかつ尖ったバンドサウンドを聴かせているのはロックバンドではなく君島大空、カネコアヤノのようなSSWを中心とした楽隊なのかもしれない。君島大空は今年のうちに2作のアルバムを出している(!)が、バンドの熱が宿っている2作目、つまりこちらの方が好き。
好きな曲は「c r a z y」。等身大の叫びが宿る歌詞も、そのまま慟哭するような歌声もグッと来る。
しつこくこの世で手を取って踊っていたい
この世で手を取って踊っていたいの!(c r a z y)
8. Sufjan Stevens / Javelin
とにかく多作でカラフルな人というイメージだったSufjan Stevensだけど、今作は音も歌詞もぐっと内省的。それでいて、カラフル。ぽつぽつと弾かれるピアノやアコギ、囁きのようなローファイの歌声は、独白というよりはむしろ親密な告白のように聞こえる。その「自分にだけはわかってほしい」と訴えかけるような歌声と宇宙的な広がりに、思わず心を掴まれてしまう。今年のグッと来るシンガーソングライター枠はこれかもしれない。
「Will Anybody Ever Love Me?」や「So You Are Tired」に至っては、そんなコト言わないで……と肩を抱きたくなるほど。それでいてラストの「There's A World」は微笑みとともにさらっと幕を閉じるようなのだからすごい。
Will anybody ever love me?
In every season
Pledge allegiance to my heart
Pledge allegiance to my burning heart(Will anybody ever love me?)
9. littlegirlhiace / INTO KIVOTOS
アルバム名と曲名から察せられる通り、おそらく『ブルーアーカイブ』をイメージソースとしたアルバム。歌詞はキャラクターを眼差すなかに願望や欲望を混ぜ込んだものなのだけど、個人的にはそういう「願い」を隠さない二次創作が一番好き。その上で、まっすぐなオルタナロックの曲調に、かなりローファイな音像も手伝って、その願いが音楽のいわゆる「初期衝動」にまで結びついているようで、かなり食らってしまった。これはもちろん、ぼくが10年来の東方二次創作ロックリスナーであるという素地もあるんだろうけど。
一番好きな曲は「cetacean」。Bメロに挟まる美しい比喩の情景からストレートな呼びかけのサビになだれ込む構成も好きだし、Cメロのキメもカッコいい。キャラ名を紛れ込ませる小技もいい。歌詞が好きなのは「Aris」も。
本当のキミがどんなやつだって
悩ましい未来が待っていたって
関係ないだろう ちょっぴり傷だらけの
ハッピーエンド探さなくちゃ(Aris)
10. THE NOVEMBERS / THE NOVEMBERS
2枚目のセルフタイトル(正確には前回はEPなのだけど)だが、それだけに今のノベンバのカッコよさを凝縮したような一枚。ラウドで疾走感がある「BOY」から始まり、80年代的なきらびやかさに満ちた「Seaside」、轟音と絶叫に支配された「誰も知らない」、そして歌謡曲趣味が昇華した美しさの宿る「かたちあるもの、ぼくらをたばねて」。ここまで多彩なのに、これら全てがまさしくこのバンドの魅力だと今まで感じ続けてきたものの結晶だという感覚がちゃんとある。まさにセルフタイトル以外ない、ノベンバの最高傑作、ひとつの到達点じゃなかろうか。
小林祐介がTHE SPELLBOUNDでも精力的に活動していたように、メンバーはそれぞれの活動にも注力していたようだけど、その中で「THE NOVEMBERSとして何をやるか」という問いの答えがこういったアルバムに結実したことが何よりうれしいという気持ちもある。THE NOVEMBERSとして音楽をやることの喜びが溢れているような一枚でもあり、そうした雰囲気は「バンドサウンドを楽しむ」という今年の個人的なムードにもぴったりハマった。今年を締めくくるのにこれ以上ない一枚だったのでは。
好きな曲は「Cashmere」。この異形のベースラインもまた唯一無二の魅力だ。「かたちあるもの、ぼくらをたばねて」「抱き合うように」の歌モノも大好き。
めんどくさいね 生きることって どうしようもなく
うまく歌えない それだけで
嬉しかったこと思い出せなくなっても 僕らは歩こう どこまでも(抱き合うように)